MARCOM投資のシミュレーション・モデル

今年の2月にCommunication Designというエントリーを書いてから、掲題のテーマで研究を進めてきました。母校大学院の先生に指導いただきながら論文に纏めて、7月末の国際学会(GLOGIFT 2010)で発表。そのモデルをベースに開発したシステムが、これです。

簡単に言うと、ターゲット・セグメント市場の諸条件を初期値におき、「どのタイミングで、どういった種類のMARCOM投資を、どれくらいの量で投入すれば、どれくらいの有効需要を喚起できるか」をシミュレートできます。左下の二重線で囲ったパラメーターや施策変数(投入量)をインプットすれば良いだけ。非常にシンプルです。

これまでMARCOM(Marketing-Communication)の世界には、明確に「有効需要」を目標においた「投資」モデルが存在しませんでした。一つには、あまりに複雑な事象を扱うMARCOMの投資効果を予測・評価することはできないという諦めが。もう一つには、現場のマーケターや広報担当の古典的な思い込み、つまりMARCOMは費用であって投資ではないという甘えがあったように思います。

その結果、日本における広告宣伝の投資効果は1を割り込み、MARCOMに投資すればするほど損をするという構図ができあがってしまいました。バブル崩壊前は100投資すれば平均的に280の新規有効需要が得られたのに対し、それ以降は100投資しても80しか得られないという状況です。

「このMARCOM戦略・予算は、目的に照らして妥当か?」という問いに対して、未だに誰も明確な回答を用意できない。ゆえに、誰もMARCOM戦略・施策を全体としても部分としても最適化できない。効果の見えない予算を継続する体力は、もはや企業にないので、どんどん撤退していく。商品は売れず、価格のみが競争優位性を決定する。利益率が下がり、長期的な研究開発に向けた予算が取れないので、経営は更に短期志向に陥る。

そんな状況を打破したいと考え、この研究を進めてきました。MARCOMが機能すれば、少なくとも需要サイドの問題は解決しうる。きっと日本で初めて、MARCOM分野に最先端の工学的アプローチを適用して作り上げたモデルであり、これから実地で応用していきながら精緻化を図っていきます。