Scotland旅行 前半

スコットランドに来ています。これを書いているのは、一部のスコッチ好きの間で有名なアイラ島にある瀟洒B&Bのベッドの上。部屋備え付けのテレビでは前女王の夫ジョージを批判するBBCのドキュメンタリーが流れています。明日朝には出立してしまうので、備忘録を兼ねてこれまでの旅程を纏めておこうと思います。

16日:ロンドン〜グラスゴー
ガトウィックを昼過ぎに出てグラスゴーに3時前に到着。レンタカー会社で予約していたプジョーを受け取る…はずが、なぜかVW。まぁ、しょうがないと諦めて乗り込む。グラスゴーは大雨で、しかも車はMTなので発進に非常に気を使う。MTは自動車教習所で乗ったのが最後なので大丈夫かと思いきや、あまり問題はない。ATよりもギヤやトルクを感じられる分、直感的で楽しい。

地図を見ながらホテルに到着。一晩35ポンドということで殆ど期待していなかったが、古い宮殿の一角を改装したようなステキなホテルで驚く。天井がものすごく高くて、窓も2メートルくらいの高さ。笑

経営している老夫婦がものすごく親切で、こちらが何も言わないのに、明日のフェリーが問題なく出発するかどうか確認してくれると申し出てくれる。スコティッシュは親切という評判を上回る親切さ。チェックアウトの時には、わざわざカラーでプリントアウトした時刻表や連絡先などWebサイトのコピーを手渡してくれる。

早速荷物を置いて、近くのバス停から中心街に向かう。雨は降り続いているが、出発前に買ったBarbourのジャケットの防水防風性に助けられる。バスを降りると、街が少し湿った煙のような、古い森のような匂いで満たされていることに気づく。適当な表現ではないが、完全に死んでしまった街の残骸に現代の夢だけが棲みついているような、巨大な幽霊の街のような錯覚を覚える。

その感覚は大聖堂や市庁舎、現代美術館を回るうちに強くなり、更に200年前にオープンしたというバーとフィッシュ・アンド・チップス屋に着く頃には確信に変わる。バーではカントリー・ミュージックを演るバンドとラフロイグを楽しみ、古いフィッシュ・アンド・チップス屋ではイタリア移民系列の店主とオペラについて語らう。そんな中でも、その賑やかな墓場のような感覚が抜けない。不思議な空気。

ホテルに帰り、近くのバーでポーランドチェコの試合を眺めながら、またラフロイグ(クオーターカスク)を舐める。チェコが均衡を破って一点いれたので部屋に帰り、熱いシャワーを浴びてから明日の用意をしてベッドに入る。

17日:グラスゴーアイラ島
6時に起きてシャワーを浴び、7時にスコティッシュ・ブレックファースト。ロンドンのものより量が多い。玉子はポーチドエッグにしてもらう。8時に出発。A82を北上してA83でKennacraig港に向かう。途中の景色が素晴らしすぎるので途中で何回か休憩をとる。休憩が多すぎたのか、一時間遅れで到着。とはいえ一時間半程度の余裕を見ていたので12時半のフェリーには間に合う。

フェリーに車を載せ、デッキに上がる。港以外は何もないフィヨルド状の内湾から外洋に出て暫くするとアイラ島が見えてくる。手前にはジュラ島がある。ジュラはジョージ・オーウェルが小説 1984年を執筆し、その後の終生を過ごした島。

クジラやイルカが見えることがあると聞いたのでずっとデッキに出て目を凝らしていたが結局何も見えない。とはいえ、かなり多くの種類の鳥が海を超えて本島からアイラに渡っているのを見る。冷たい海の水面ギリギリを小さな鳥が飛んでいるのを見ると、少し寂しげな気分になる。

アイラ島のPort Askaigに到着すると、Caol Ila(カリラ)の蒸留所見学時間が迫っているので早速その方向に向かう。蒸留所は港の少し北側の崖を下りたところに建てられていた。Caol Ilaは個人的に好きな蒸留所で、他のアイラ・モルトよりシャープで甘い印象があったのだが、蒸留所を取り巻く景色や環境があまりにイメージ通りで嬉しくなる。

蒸留所が面する港の向こう300-400メートル先にはジュラ島が見え、背後の崖には小さな滝があり、穏やかな天候のこじんまりした場所で居心地が良い。Caol Ilaはゲール語でSound of Islayを意味し、アイラでは最大の生産量を誇る。Caol Ilaとして熟成して販売するのは全体の5%で、他はジョニー・ウォーカーなどに卸しているとのこと。

蒸留所内部の撮影は禁止ということで少し残念だが、十人くらいの少人数グループで全体をスタッフが案内してくれる。なんとSMWSのロンドン支部のスタッフ四人も研修旅行で来ており、いろいろ話しながら一緒に回る。見学の最後には10年もののCaol Ilaをドラム・グラスでテイスティングし、グラスはプレゼントされる。

四人と別れ、車でB&Bに向かう。なだらかな地形の狭い田舎道をゆっくり運転していると、陽がさしてきてのんびりした気分になる。B&BBowmoreにあり、街自体が非常に小さいのですぐに見つかる。部屋に荷物を置いて、早速ドライブに出掛ける。

まずはこの頃話題のKilchoman(キルホーマン)に。日曜で6時を過ぎているので閉まっているのは確実だが、周辺の風光が見たくて車を飛ばす。舗装されていない農道をゆっくり20分ほど進むと、なだらかな丘の上に牛や馬の牧場があり、その牧場の中に牛舎を改造したようなこじんまりした蒸留所がある。まさに密造所!といった風情で、すごく牧歌的且つ微笑ましい印象。

Kilchomanは2000年代中盤の操業で、そのため最初の樽が2010年に出たばかりという非常に新しい蒸留所。Ardbeg(アードベッグ)よりもピーティで強い味わいだが、たぶんスコッチ好きの親父が趣味を嵩じて始めちゃったという感じなんだろうと勝手に想像していました。

Kilchomanを後にしてBruichladdichに向かう。アイラの住人は車ですれ違う時に手を上げてドライバー同士が挨拶する。こちらが手を上げると、あちらも嬉しそうだ。子供たちも礼儀正しくて道ですれ違う時にスピードを落とすと手を上げて挨拶をしてくれる。

Bruichladdichも既に閉まっている。ここはスコッチで初めてオーガニックのウィスキー作りを始めたところで、知る限りでは現在でも唯一。蒸留所はBowmoreから車で20分ほど行った入江の反対側に位置し、Bruichladdich村の真中にある。ミントグリーンの看板ロゴや、洒落っ気溢れるモニュメントから、おちゃめでロックな20代といった印象。

ホテルに戻り車を停めてから街の数少ないバーに出掛ける。Pibrochの12年からBowmoreの15年とDarkenと飲み進めていると日本語が聞こえてきたので会話に加わる。日本でワインと焼酎をつくっている25歳と、同年代くらいの新婚カップル、70代の実業家という顔ぶれ。

9時半ごろから飲み始め2時間くらい会話を楽しんだ後、実業家氏に全員ビールを奢って頂き、バーも閉店になる。25歳氏と会計を待っているとグラスゴーから来たWebエンジニアのIam37歳が話しかけてきて、その流れで何故かもう一軒付き合うことになる。Ardbegを一杯奢ってもらったお礼に不思議なスピリット(茴香系)をご馳走し、Iamが先に潰れてしまったので自分も部屋に帰る。時計をみると12時を回っていたのですぐに就寝。