Want a fight? I'm ready.

オバマ大統領は、怒ってみることにした。

と書くと、実際には心から怒っていないのではと思われてしまいそうだが、本当に怒っているわけではないのである。

というのも、マサチューセッツで先週行われた選挙で、共和党スコット・ブラウンが勝利し、民主党は上院で60議席を割ってしまった。つまり2010年に医療保険で実績を残すことが事実上不可能になったというわけで、その代わりといってはなんだけれど、かの悪名高いウォール・ストリートの連中を「怒ってみる」ことにしたのだ。

革命的な政策を実行しようとする大衆政治家は、その後盾に世論の支持がなくてはならない。世論が支持しない大衆革命家なんて、王様のいない道化に過ぎないのだから。

そんなわけで、オバマ大統領は早速、勧善懲悪活劇を始めようとしている。元FRB議長のポール・ヴォルカーが提案する金融規制強化法案を支持し、ヘッジファンド投資やプライベート・エクイティー投資を制限、また更なる金融セクターの統合にも制限をかけることを宣言したのだ。

非常に強い口調で、ウォールストリートを名指しで批判しながら。ABCの取材にも“We’re about to get into a big fight with the banks.”と、強く答えている。金融業界の外から眺めていると、たしかに気持ちいいしスカッとする。

ただ、これには若干の背景がある。そもそも、このヴォルカー提案は共和党ジョン・マケインが主導し超党派で進めていたものであり、議会の承認が取りやすいイシューであること。つまり先週の敗戦と関係なく、スムーズな形で、オバマ大統領のリーダーシップを演出できるメリットがあるということだ。

とはいえ、このヴォルカー提案はグラス・スティーガル法の再来と言われ、その導入による金融業界への影響は未だ十分に分析・議論し尽くされているとは言えない状況にある。(グラス・スティーガル法というのは、1933年に銀行業務と証券業務の分離を謳い制定された法律で、その後ビル・クリントン政権下で廃止されている)

つまり、未だ時期尚早のものを「怒っている」フリをして強硬に通そうとしている。

しかし、これはFAD(Fear/Anger/Doubt)の喚起そのものだ。オバマはダークサイドに落ちつつあるのかもしれない。それが危惧されてならない。