"地球温暖化"論否定に向けた聖戦

地球温暖化と気候変動との関係は、未だ科学的に立証されていない」
アメリカでは政府やNASA、大学、企業、世論も含め、そういう主張をしています・・。と、我々は認識しています。

本当に??

これは怪しいなぁと以前から思っていましたが、なんと「中の人」が内実をつまびらかに告発・出版していました。米国石油協会と西部燃料連盟(化石燃料発電に連なる産業・企業コンソーシアム)、TASSC(Philip Morris社出資の反科学者団体)といった経済団体が1990年代初頭に集まり、地球温暖化・気候変動に関する科学者たちの警告に対する否定的世論の誘導に向け協働していたというものです。

"The Crusade to Deny Global Warming"
by James Hoggan with Richard Littlemore


ちなみに、本プロジェクトは"THE CRUSADE(十字軍、聖戦)"と呼ばれていたそうです。

著者のJames Hogganは、この「聖戦」のコンサルタントであり、彼が米国内世論の誘導を行う為に採ったあらゆる方法について解説しています。彼の採った方法は、いわゆる伝統的な「Disinformation」に過ぎないとはいえ、未だにこういった施策が功を奏してしまう状況には危機感を覚えざるを得ません。

たしかに、イエール大とジョージ・メイソン大が2008年末に行った世論調査でも、「米国民の大半が、気候変動について懐疑的/無知である」ことが裏付けられています。本書では、世論をその状態に至らせしめた事前・万全の策が紹介されているわけです。

まず、なんといっても、気候変動に関する科学的な議論が始まりつつある時期を逸せず、強力な先手を打っていることでしょう。先回りして「偽権威による情報発信」と、その「山びこ効果」を大量に図り、圧倒的なマスを掌握することで世論が科学的な情報を受け入れないような土壌を作り上げてしまった。

最初に彼らがやったことは、"American Coalition for Clean Coal Electricity"や"Americans for Prosperity"といった、一見中立的なキャンペーン用団体を設立したこと。あくまで黒幕は登場せず、中立的な装いで「化石燃料で発電してもクリーンな技術がある」、「気候変動や地球温暖化は、米国を搾取しようとする諸外国のイニシアチブである」といった主張を展開させています。

具体的には、上記の団体をプラットフォームとして、Exxon Mobileの御用学者たち・シンクタンクから同様のメッセージを大量発信させたり、不公正な世論調査を大量に実施し発表したり、とにかく主要メディアの報道面積で科学的議論を圧倒することをやったわけです。

更に、市井の環境活動家を大量買収(一人あたり平均1,800ドルとのこと)し転向させたり、転向者からのネガティブなクチコミを促したり、その様子をメディアに取材させたりと、まさにブラック・プロパガンダの教科書みたいな展開をしています。またチェイニーやジョージ・ブッシュ等の主要な政治家やNASA等の権威が、ちらっとでも温暖化に懐疑的なことを言えば、その映像なり資料なりを、しつこいほど繰り返しメディアに流させたということです。

彼らの戦略は、「科学的議論を愛国議論に転化」し、更に「地球温暖化と気候変動との関係は科学的に未立証という御用学者の言説を浸透」させること。そのために圧倒的な資金と情報を投入した。ただ単に、それだけですが、これだけでも先述のような世論誘導が成功してしまう。

初期「聖戦」終了後、この世論誘導の試みは、ジョージ・W・ブッシュの政権2期目が引き継ぎます。(引き継いだ経緯は不明だが、多分に息子ブッシュが自発的に引き継いだのだろうとのこと。だって実家が石油会社ですから。) 息子ブッシュが、その2期目に入って最初にやったことは、某石油企業社員をNASAの広報担当にしたこと。NASA所属の良識ある科学者が取材を受けること・プレスリリースをすることを一切禁止し、且つ当該科学者の研究予算を20%削減、更にNASAのミッション・ステートメントから"to understand and protect our home planet"を消し去ったということです。(今は復活しています)