Emerging Art Market

世界中でここ数年、美術品市場が急成長中なのだそうです。先日大変興味深い話を聞いたので、この分野は全く素人ながら、私のテーマでもあるSoft Powerにも関連するところもあり、備忘録も兼ねて軽く纏めておこうと思います。

  1. 新興国の高度成長期には億万長者が多く生まれ、中には国内外の美術品を買い漁る人も出てくる。
  2. 新興国が軸となり美術市場が活性化すると、世界中で新たな才能が見出されたり、当該国の歴史的な美術品の価値が世界に発信されたりする。
  3. 一方でそういった億万長者達はある水準で満足してしまい、ワイン等の他の奢侈品に移ろいやすいこともあり、今回の急成長もバブルで終わる可能性が高い。

Art Marketの取引総額は、イギリスのオークションハウス(クリスティーズ?)の推計によれば、2009年に280億円、2010年は430億円だということです。基本的にVolatilityの高い市場であるものの、急成長の背景にはBRICsのバイヤーの存在があるそうです。

例えば中国バイヤーの購入総額は、現在世界全体の23%を占めており、2005年には5%でしかなかったことを考えると非常に大きなPowerをもっているとのこと。ヨーロッパの美術品市場になぞらえると、ロンドンは香港、ベルリンは北京、スイスはシンガポールという比較がされるくらいだそうです。一方で贋作が多く出回ったり、マネーロンダリングに使ったり、落札金額をいつまでも支払わなかったりするので、China Premiumが課せられているそうです。

ロシアはシルクロードがオイルロードになったことで、Roman Abramovichを中心に世界中で"Trophy Buying"(トロフィーを獲るくらい有力・著名な作品ばかりを買うこと)を盛んに行っており、プレミア・リーグチェルシーのみならず、特にロシア美術史とは無関係な西欧諸国を中心に人気のあるポスト・モダーンを多く集めているとのこと。とはいえロシア人の買い方はかなり投機的で、購入した翌年に売りに出したりと保有期間が非常に短いということでした。

インドでも55人の億万長者(Billionaire)が、Active Collectorとして日本人の目利き(Masanori Fukuokaさんという人が有名らしい)を雇うなどして相当数投資しているようです。

一方で、ブラジルは国内の美術市場が独自に発展していて強いこともあり、国外の美術品市場にはあまり出てこず、国内への投資が多いということです。("文化・芸術の歴史の長い国の億万長者は、そもそも国外を買い漁ることはしない"と、若干ブラジル以外に対してはシニカルに見ているようでした。)

この業界の長い人の話なので、こういった見方は特にヨーロッパでは一般的なんだろうと思いますが、内容を総括して私が感じたのは以下3つでしょうか。

  1. 美術・芸術とは高尚な側面ばかりではなく、実はその大きな部分が億万長者たちの個人的な見栄によって動かされており、オークショニア達も含めて、そんなに純粋に美術・芸術を見ているわけではない。
  2. 結局、巨万の富を得た人々の間で必ず起こるブームの一つでしかないので、経済成長のスピードが緩やかに落ち着いてしまえば、美術品市場のバブルも終わってしまう。
  3. とはいえ、特にグローバルな億万長者達のサロンでの影響力はすさまじく、そこで名声を得たり、当該国の作家の名前が知られるようになることは、国家としての潜在的なプレゼンスを高める上で効果がある(?)。

美術品市場や億万長者達のサロンというものが、具体的にどんな場なのかもよく分かっていませんが、そういった人々をターゲットに国家ブランディングを仕掛ける必要がある場合は、美術品市場というチャネルは面白いのかもしれません。