政策や製品の特徴・方向性がいつのまにやら失われてしまう理由

八方美人的に色んな意見を取り入れた挙句、もともと持っていた方向性を見失っていったり、当初のコア・ファン層が評価していた特徴がバージョン・アップを重ねるうちに消え去っていくことがあります。

そして、その結果、誰のための政策・製品なのか分からなくなってしまう。

たとえばノートPCについて考えてみる。消費者の嗜好が、デザイン重視派と機能重視派で次のように分布していたとして、且つApollo社はデザイン重視派を、Banasonic社は機能重視派をメインにターゲティングして製品を開発していたとする。

最初のポジショニングでは、A社・B社それぞれの方向性・特徴はとても分りやすい。そして消費者が自らの嗜好に最も近い製品を選択した結果、A社とB社は140ずつ今期の売上をあげることができた。

さて、次期製品の開発にあたって市場調査を行ったB社は、ある程度の機能を諦めてデザイン性を向上させることでシェアの拡大ができることを発見。さっそく自社のポジショニングを見直すことにした。

結果としてB社はA社から10の売上を奪取することに成功。市場のシェアを伸ばした。

一方でA社はB社からの突然の攻勢を受け、その対応方法の検討を余儀なくされる。デザイン性を大きく損ねたとしても機能性を追及することでギリギリまでB社の攻勢を食い止めるというクリンチ戦略だ。

A社の反撃は奏功し、奪われたシェアのみならず、更にB社の売上10を奪取することに成功する。ここに至り、当初はB社に先手を取られたものの、最終的にはA社がシェア争いで勝利を得たように見えた。

しかし、ここでもB社は更なる攻勢に出る。なんと、これまでのアイデンティティである機能性をかなぐり捨てても、シェアの追求に駒を進めたのだ。

結局、A社・B社はともにシェア獲得競争を繰り広げる中で当初の特徴・方向性を失い、市場の中央値に最も近いポジショニングに落ち着いてしまう。上図のように、当初の製品開発とは全く異なる方向性に帰着していくこともある。そして、この分布で言えば、左右両サイドの、それぞれ110の消費者が「最初のバージョンの方が良かった」と嘆くことになります。

これを中位投票者定理(Median Voter Theorem)といい、政治学において政党間競争を説明する際のフレームワークの一つとして、よく使われています。純粋に「闘争」を前提としたゲームのルールを研究する政治学には、マーケティング・コミュニケーションを「闘争」と捉えた際にも、示唆に富む内容が多いのです。

このケースではA社・B社の2プレイヤーを前提としていますが、もちろん新規参入C社の登場や、B社による更なる攻勢など、めくるめく闘争は続いていきます。このような消費者行動論やマーケティング論ではあまり扱うことのない純粋な戦略論のエッセンスが政治学には豊富に蓄積されており、政治学マーケティング・コミュニケーションの接点には非常に面白いフロンティアを見ることができます。